【2006年3月】ベトナムの若き企業家たち/多くの企業が工員の給料UPを保証
春さんのひとりごと
<ベトナムの若き企業家たち>
先日日本から来た建設会社の人の紹介で、ベトナム人の大変若いビジネスマン2人に出会いました。
一人はGさん、今年38才。今彼は投資会社の社長をしています。彼はアメリカのフルブライト奨学生の試験に合格してアメリカに2年間留学。その間経営学をみっちり勉強してベトナムに帰りました。
そしてGさんはベトナムに帰国後自ら投資会社を設立して、外国企業からの投資を誘って、今現在一年間で約400億円ほどの金額を動かすほどの会社に成長させました。その多くは不動産投資です。
彼の話を聞いていると、ベトナムの政府要人ともかなり深い付き合いがある様子が会話の中から推測出来ました。
彼の英語力はといえば、普通のベトナム人が話すベトナム訛りの、日本人には大変聞きづらい英語とは違い、さすがに見事な英語の発音で会話してくれました。
もう一人の若きビジネスマンはVさんで、26才。彼は今年設計会社の若手社長としてスタートし始めたばかりです。彼は20才で日本に国費留学しました。そして奨学金を日本政府から月14万円ほどもらって、6年間の留学生活を日本で送りました。
Vさんは大阪外大で一年間日本語を勉強しました。その後大阪大学に5年間在籍して、今年ベトナムにようやく帰国したばかりです。
大阪大学では日本人の生徒たちと一緒に、日本語で授業を受けていたといいます。
彼自身とは今回が初対面でしたが、すばらしく流暢な日本語を話し、性格も大変明るく、明敏な印象を受けました。
彼の父は今ホーチミン市内にある大学の教授です。彼のその弟も同じように国費留学生として、今京都大学に留学しているといいますから、こういう家庭はベトナムの中でもエリートの家庭に属するほうでしょう。
彼は6年間の日本留学中に、たまたまベトナムから来たお客さんの通訳を頼まれたのが縁で、ある日本の大手建設会社の人と懇意になったそうです。
その日本人の人はしばらくVさんと付き合ううちに、Vさんの信頼出来る人格とその才能を見込んで、「ベトナムに帰ったら会社を作ってビジネスを始めてみないか?」と提案しました。そのための資金は日本側から提供することにして、今年の2月にベトナムで設計事務所を新しく立ち上げました。
その事務所を見せてもらいましたが、まだペンキの匂いがするような完成したばかりの新しい事務所でした。Vさんは、「まだコンピューターも、いろんな機材もこれから揃えないといけないのですが、第一の急務は人材の募集です。誰か日本語の出来るいい人を紹介して頂けませんか」と依頼して来ましたので、私も「いいですよ」と答えたことでした。
今アジアの中でも中国に次いで成長しているベトナムに、こういう新しい企業家が出現して来ているんだな~と大変嬉しく思ったことでした。今後もこういう人たちが続々と出て、ベトナムで新しいビジネスを始めていくのだろうと思います。
そうなると、日本語や英語を今ベトナムで勉強している学生たちにも、学校で学んだ語学が活かせる仕事の場が広がって来ることでしょう。
ベトナムBAOニュース
「BAO(バオ)」というのはベトナム語で「新聞」という意味です。
「BAO読んだ?」とみんなが学校で話してくれるのが、ベトナムにいる私が一番嬉しいことです。
■ 今月のニュース 「多くの企業が工員の給料UPを保証」■
ホーチミン市郊外にあるビエン・ホア工業区内の日本企業で発生した、1万人以上の新しく採用された工員によるストライキは落ち着きを見せ始めた。多くの工員たちは、工場監督者が示した、賃金のUP・各種手当を増やすこと・管理の仕方の調整などについて同意して仕事に戻って来た。
例えばFujitsu社の社長は、2006年の始めには基本給の5%UPのレベルで提示していたが、さらに5~18%(年齢によって違う)にUPすることを約束した。さらに勤勉な工員には各種手当ても付けることなども保証した。この手当ての細目については、2006年3月中旬には公開して通知することになった。さらには、工員たちの圧力の以前に、Fujitsu社はいろいろな社内の仕事の「改善」について決定していた。
ホーチミン市内でもベトナムの会社のいくつかでストライキが再発した。靴を生産しているある工場では、100人以上の工員がストライキを行い、工員の給料の増加を要求したが社長はまだその要求に対して応答していないので、工員たちも仕事に戻っていない。さらにまた別の会社では、500人以上の工員が給料のUPと労働条件の改善を要求してストライキを続けている状態である。
(解説)
今回のホーチミン市郊外におけるストライキは日本企業だけに起こったものではなく、台湾や韓国、そしてベトナムの企業にまでそれが広がってしまいました。ただ今現在は沈静化しています。
ストライキを起こした彼等工員の一ヶ月の給料の平均は、約60万ドン~70万ドン(約4400円~5200円)くらいらしく、それを「80万ドン~90万ドン(約5900円~6700円)に上げて欲しい」と言う要望でした。今ホーチミン市内でもいろんな緒物価が上がる一方ですから、今まで低賃金に甘んじて来た彼等の要求には、同情出来る点があります。
先日は経団連の奥田会長もベトナムに来て、こちらの首相や大統領とも会談し、この問題について奥田会長は「ホーチミン市周辺の日系企業で頻発している労働争議についてうかがいたい」と質問したと言います。
これに対して、大統領は「責任はわが国にある」と謝罪し、ホーチミン市長も「外国投資を損ないかねない事態だ」と遺憾の意を示したと伝えられています。ベトナムの労働者における低賃金の水準は当然知悉した上でのそういう回答でしたが、もし後で奥田会長がその事実を知れば、ベトナム側の苦衷に深く思いを致すことでしょう。
それにしてもベトナムのこういう対応は、昨年の反日デモで自国の国民が日本領事館に乱暴・狼藉を繰り返しても「責任はすべて日本側にある」と昂然と言い放ったあの中国とは、明かに違っていると言えるでしょう。
今ベトナムは年率8%の成長を続けています。最近の潮流として、中国投資へのリスク回避のためにベトナムに対する日本の直接投資は2003年の3億ドルから04年には8.1億ドルにまで増大し、その後も引き続き増加傾向にあります。
ベトナムのWTO加盟ももうすぐそこまで来ているといいますが、いろんな追い風が今のベトナムには吹いて来ているようです。以前ドイモイの新しい風が吹いた時には、その国家経済運営のあまりの未熟さから、外国の投資ブームのチャンスを活かし切れず、ものの見事に失敗してしまいました。
今度吹いて来た追い風に上手く乗ることが出来るかどうか、まさに今からベトナムという国の舵取りが試されて来ていると言えるでしょう。